民泊サービスを行う場合、【民泊を行う3つの方法】で紹介した「住宅宿泊事業法」に基づく方法として行うことが現実的です。そこで、住宅宿泊事業法に基づく民泊サービスの行い方の概略を紹介しておきます。
■民泊サービスを行えない「住宅」もある
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そもそも住宅宿泊事業法における「住宅」と言えるためには、以下の要件を満たす必要があります(同法2条1項、同法施行規則2条)。
▼住宅宿泊事業法の「住宅」に該当するための要件
①当該家屋内に台所、浴室、便所、洗面設備が設けられていること。→家屋の設備面での要件。
②現に人の生活の本拠として使用されている家屋、入居者の募集が行われている家屋、または、随時その所有者、賃借人または転借人の居住の用に供されている家屋であって、人を宿泊させるものまたは入居させるものを除く、事業の用に供されていないもの。
まず、上記①の要件から、台所や浴室等がない空き家を利用して、民泊サービスを行うことができません。この場合、民泊としての利用を諦めるか、設備投資を行う必要があります。両親の住居を相続した場合を前提にすれば、両親が生活の本拠として使用していた以上、台所や浴室等がないというケースは少ないでしょう。
▼住宅宿泊事業法の「住宅」に該当するための設備要件
ただし問題は、上記②の「随時…居住の用に供されている家屋」でなければならない、ということではないでしょうか。「随時…居住の用に供されている家屋」とは、純然たる生活の本拠としては使用していないものの、これに準ずるものとして、空き家の所有者等によって、随時居住の用に供されている家屋のことです。居住といえる使用履歴が一切ない、民泊専用の新築投資用マンションなどは、この要件を満たさないことになりますが、以下のケースでは要件を満たすこととなります。
▼「随時…居住の用に供されている家屋」の具体例
・別荘等、季節に応じて年数回程度利用している家屋
・休日のみ生活しているセカンドハウス
・転勤により一時的に生活の本拠を移しているものの、将来的に再度居住の用に供するために所有している空き家
・相続により所有しているが、現在は常時居住しておらず、将来的に居住の用に供することを予定している空き家
・生活の本拠ではないが、別宅として使用している古民家
空き家が遠方にある場合であっても、年に数回程度は泊まり込むような場合は条件を満たしますし、将来的に移住を予定している場合などは、この要件を満たすことになります。
■「家主不在型」の場合は、管理業者への委託が必須
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次に、民泊として利用する住宅については、住宅宿泊事業者(家主)が居住しているか否かによって「家主居住型」と「家主不在型」に分けられ、それぞれについて規則があります。
①家主居住型(ホームステイ型)
家主が住宅内に居住しつつ、その住宅の一部を宿泊者に提供する形式です。なお、宿泊者への提供日に、家主が旅行などで不在の場合は、家主不在型となります。
②家主不在型
家主が当該施設を生活の本拠としていないか、または宿泊者への提供日に家主が不在となる住宅を宿泊者に提供する形式です。
上記②の家主不在型の場合、宿泊施設への監督機能が働かず、騒音などの近隣トラブルが生じる可能性が高いため、住宅宿泊管理業者へ管理・運営を委託することなどが義務付けられています。よって、空き家を民泊施設として利用したい場合、基本的には、住宅宿泊管理業者へ管理・運営を委託することになるでしょう。民泊サービスを行うがために移住する…というのは現実的ではありませんよね。
■住宅宿泊事業法の民泊の手続き
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住宅宿泊事業法の民泊の届出をする場合の手続きについて、大まかに言ってしまえば、①必要事項の確認、②届出に必要な書類をそろえ、③観光庁の民泊制度ポータルサイトか、空き家の所在する地域の担当窓口に届出の申請を行うこととなります。それぞれの概略を紹介しておきます。
【届出前の確認事項】
住宅宿泊事業法の届出の前には、以下の事項について確認・準備をしておく必要があります。
▼届出前の確認・準備事項
①欠格事由にあたらないか。
②民泊関連条例や自治体独自のガイドラインの有無と内容。
③届出者が賃借人・転借人の場合、賃貸人・転貸人が住宅宿泊事業を目的とした賃借物及び転借物の転貸を承諾しているかどうか。
④届出住宅を管轄する消防署から「消防法令適合通知書」を入手する。
上記①の欠格事由とは、そういう人は民泊サービスを行いません!…という事がらであり、、以下のものです。
▼以下のいずれかに該当する者は、住宅宿泊事業を営むことができません。(住宅宿泊事業法4条)。
①心身の故障により住宅宿泊事業法を的確に遂行することができない物
②破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者
③住宅宿泊事業法16条2項の規定により住宅宿泊事業の廃止を命ぜられ、その命令の日から3年を経過しない者(当該命令をされた者が法人である場合は、命令の日前30日以内に当該法人の役員であった者で当該命令の日から3年を経過しないものを含む。)
④禁錮以上の刑に処せられ、または住宅宿泊事業法もしくは旅館業法の規定により罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、または執行を受けることがなくなった日から起算して3年を経過しない者
⑤暴力団員等である者、または暴力団員等でなくなった日から5年を経過しない者
⑥営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年者でその法定代理人が①から⑤のいずれかに該当する者
⑦法人であって、その役員に①から⑤までのいずれかに該当する者があるもの
⑧暴力団員等がその事業活動を支配する者
【住宅宿泊事業の届出について】
住宅宿泊事業を営もうとする人は、あらかじめ、住宅の所在地を管轄する都道府県知事または保健所設置市等の長に対して、「住宅宿泊事業届出書」の提出による届出をする必要があります。「住宅宿泊事業届出書」の入手方法は、各自治体の保健所など、住宅宿泊事業に係る届出の受理等の事務を処理する窓口で入手する方法か、以下の観光庁の「民泊制度ポータルサイト」からダウンロードする方法があります。
>>「minpaku~民泊制度ポータルサイト(観光庁)」住宅宿泊事業法(関係法令・様式集)
次の「民泊制度運営システム」を利用して届出を行う場合は、「住宅宿泊事業届出書」の入手・ダウンロードをする必要はありません。
そして、届出の方法について、届出は「台所、浴室、便所、洗面設備」が設けられている住宅宿泊事業を営もうとする住宅ごとに行う必要があります。また、原則として届出は、観光庁の民泊制度ポータルサイトから利用することができる「民泊制度運営システム」によって行うこととされています。
「民泊制度運営システム」とは、住宅宿泊事業者や住宅宿泊管理業者、住宅宿泊仲介業者(これらの事業を営もうとする者を含みます)が、住宅宿泊事業法に基づく届出や申請、報告などの手続きを電子的に行うためのシステムであり、以下の3通りの利用方法があります。
▼「民泊制度運営システム」の利用方法
①電子申請・届出
申請・届出書の作成及び添付書類も含めた必要書類の提出について、全て「民泊制度運営システム」を介して行う方法(※電子署名・電子証明書または身分証明書が必要になります)
②電子申請・届出(一部書類別提出)
申請・届出書の作成及び添付書類も含めた主な必要書類の提出は本システムを介して行い、一部の書類については紙媒体により別途窓口に提出する方法(※電子署名・電子証明書または身分証明書が必要になります)
③届出書類作成のみ
申請・届出書の作成を本システムで行い、書類は紙媒体により全て窓口に提出する方法
なお、届出が必要な「住宅」について、1棟の建物全体である必要はありません。建物の一部分のみを住宅宿泊事業の用に供する場合には、その部分のみを「住宅」として届け出ることができます。よって、届出の際に添付が必要となる「住宅の図面」についても、住宅宿泊事業の用に供する部分のみの図面を添付すれば足ります。そして、届出が受け付けられれば、都道府県知事等によって、すみやかに届出番号の通知が行われます。この届出番号は、住宅宿泊事業者の標識の指示を行うために必要となるものです。届出番号が通知される前に事業を開始した場合には、この標識に届出番号を記載することができないこととなり、民泊新法に違反するものとして罰則等の対象となってしまいます。
(届出の添付書類について)
届出には、いくつかの添付書類が必要となります。ここでは現在、空き家になっている家屋を利用することを前提に、届出者が「個人」である場合の添付書類を紹介しておきます。
▼届出の添付書類(個人)
・欠格事由に該当しないことの誓約書
・住宅の登記事項証明書
・住宅が「随時その所有者、賃借人または転借人の居住の用に供されている家屋」に該当する場合は、当該住宅が随時その所有者、賃借人または転借人の居住の用に供されていることを証する書類
・次に掲げる事項を明示した住宅の図面
①台所、浴室、便所、洗面設備の位置
②住宅の間取り及び出入口
③各階の別
④居室、宿泊室(宿泊者の就寝の用に供する室をいう。)および宿泊者の使用に供する部分(宿泊室を除く。)のそれぞれの床面積
・届出者が住宅に係る住宅宿泊管理業務を住宅宿泊管理業者に委託する場合は、当該管理委託契約の締結時に交付された書面の写し
必要書類は各自治体で異なるので、事前に自治体ホームページや窓口で確認しましょう。