【第4章 既に空き家がある場合(貸すという選択)】⑨更地にして「土地」を貸すという選択



 

賃貸に関しては、空き家を取り壊して更地にした上で「土地を貸す」という方法もあります。空き家の取壊し自体は、建設業者に依頼することになりますが、ここでは土地を更地にした後の借地契約等について紹介します。

 

 

■土地を貸す契約にもいくつかの種類がある
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建物の建築を目的とした「土地」の賃貸借契約を「借地契約」と言います。皆さんが土地を貸した後、土地の借主(借地人)が、自身で工務店等と契約を締結して、新築建物を建ててもらう形式です。この(建物の建築を目的とした)借地契約に該当すると、借地借家法という法律のルールに従うことになりますが、「借地契約」にもいくつか種類がありますので、代表的な借地権とそれぞれのメリット・デメリットを紹介しておきます。

 

「空き家」を貸す場合、皆さんはいわゆる「大家さん」という立場になりますが、土地を貸し出す場合、皆さんは「地主さん」という立場になります。なお、一般的に借地契約は長期間の契約となるため、借り手がつけば、安定して地代収入を得ることができます。また、原則として、借地人(=その後に建築した建物の所有者)は、地主に無断で建物を処分できないことになっているため、知らない間に、知らない人が自分の土地上に住んでいるということがない安心感もあります。

 

 

■普通借地権について
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地主と借地人との間で、特別の制約なくして借地契約を締結することにより成立するのが「普通借地契約」です。借地権の存続期間は最短でも30年とする必要があり、借地契約を更新する場合でも、最初の更新は20年、それ以降の更新は10年以上と定められています。また、地主からの更新拒絶は、正当な事由がない限り認められません。借地借家法は、借地人の権利を守ることを重視してルールが定められています。「普通借地契約」を締結すると「子、孫の代になっても土地が戻ってこない」という事態もあります。また、契約の更新をしないとして、無事に借地期間が満了したとしても、地主は、借地人から借地上の建物を時価で買い取るように請求される可能性があります。これを「建物買取請求権」と言います。本来そのような建物は借地人が建築したものなので、更地にして退去すべきなのですが、借地人が「建物買取請求権」を行使すると、地主が建物を引き取らなければなりません

 

 

■一般定期借地権について
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上記のような、地主にとって不利益となりうるルールを排除した借地権が「一般定期借地権」です。これは書面あるいはデータによって、契約期間の更新がないこと、建物の再築による存続期間の延長をしないこと、建物買取請求をしないことを明記して借地契約をします。ただし、借地人の権利を守る観点から、借地権の存続期間を50年以上としておく必要があります。

 

▼一般定期借地権のメリット

契約期間満了時に、必ず土地が返還される(=更新がない)。

借地人(借主)の負担で、土地は更地にされた上で変換される。

③借地人から建物買取請求を受けることがない

 

上記のメリットのように、地主サイドとしては、期間満了で土地が戻ってくる、不要な建物も除去されている…といった点で、安心して土地を貸し出すことができます。とはいえ、下記のデメリットもあります。

 

▼一般定期借地権のデメリット

①最短でも50年は戻ってこない

②契約書を公正証書で作成した場合、書面作成費用がかかる。

③一般定期借地権の登記の費用がかかる。

 

普通の借地契約でも「30年以上」の契約期間となりますが、一般定期借地権の場合、それよりも長い50年以上の存続期間を定めなければならないため、より契約期間が長期となることは覚悟しておきましょう。とはいえ、契約期間が長い点は、契約さえしてしまえば、その期間は賃料収入を得られ続けるという「メリット」とも言えるでしょう。また、一般定期借地権の契約書は、公正証書で作成することを推奨されていますが、契約書を公正証書で作成すると手数料がかかります。また、第三者に権利を対抗するために、一般定期借地権を設定していますよ…という登記をするため、登記の費用がかかり、普通の借地契約よりはコストがかかってしまう点はデメリットといえます。

 

 

■事業用定期借地権について
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専ら事業の用に供する建物の所有を目的として、借地契約をする場合には「事業用定期借地権」という借地権を設定できます。「専ら事業の用に供する建物」とは、店舗、倉庫、工場、オフィスビル等です。この契約を結ぶと、借主は居住用の建物を建てることは認められませんが、ホテル用の建物であれば(=事業用なので)、事業用定期借地権の設定は可能です。また、この事業用定期借地権は2種類あります。①存続期間を「30年以上50年未満」の範囲で定める借地借家法23条1項の事業用定期借地権と、②存続期間を「10年以上30年未満」の範囲で定める23条2項の事業用定期借地権です。この2つに大きな差はありませんが、②の事業用定期借地権(10年以上30年未満)とした場合、「契約期間の更新なし」「建物再築による存続期間の延長なし」「建物買取請求権なし」が、契約内容に当然に含まれます

 

▼事業用定期借地権のメリット

一般定期借地権よりも短期間で土地が返還される

②事業者が商売をするために借りるので、比較的高い額の地代が期待できる

 

存続期間の更新がなく契約は満了し、更地の状態となって返還される点は一般定期借地権と同じ利点です。また、上記②の事業用定期借地権(10年以上30年未満)であれば、長期安定的な地代を得ながらも、自身の代で土地の返還を受けて、次代に引き継ぐこともできます。これに対してデメリットは以下のとおりです。

 

▼事業用定期借地権のデメリット

立地が良くないと、借り手がつかない(事業目的のため)

契約書の作成に手間と費用がかかる

 

借主が事業を目的とする場合なので、空き家のある敷地が国道等に近接しており、ロードサイド店舗を運営するのに向いている土地などであれば、事業用定期借地権を設定するには最適です。他方、土地が閑静な住宅地にあるなど、事業者のニーズにマッチしていない土地である場合、事業用定期借地権を設定したいという借り手が現れることは期待できません。また、事業用定期借地権は、必ず公正証書により契約書を作成することが求められます。普通の借地契約の場合、当事者で書面を作成したときは、数百円の収入印紙代を貼付するだけで足りますが、事業用定期借地権の設定契約書は、公証役場まで足を運んで、公証人の認証を受けて作成するため、数万円の手数料がかかることも珍しくありません。そして、一般定期借地権と同様に、事業用定期借地権の設定登記も行うことになりますので、最もコストがかかる方法といえます。さらに、事業者の経営が破城した場合、土地上に他人の建物が残置されたまま、地代収入がストップしてしまうリスクがあることも知っておきましょう。

 

 

■建物譲渡特約付借地権について
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借地権の設定契約時に、借地権を消滅させるために、設定後30年以上が経過した時点で借地人が所有している建物を地主に相当の価格で売却する旨の特約を定めた場合の借地権を「建物譲渡特約付借地権」といいます。この特約は、借地契約後に追加することができません。例えば、建物譲渡特約付借地権の設定後、借地人が賃貸アパートを建築し、借地人は家賃収入を得て、その中から地代を地主に支払い、一定の期間が経過した後、地主は借地人より賃貸アパートを譲り受けて、借地契約終了後は大家として家賃収入を得るケースが考えられます。一般定期借地権の場合、借地権の存続期間満了時に借地人が建物を取り壊して更地にして退去しますが、建物譲渡特約付借地権は、借地人が建築した建物ごと土地の返還を受ける点が特徴です。なお、一般定期借地権や事業用定期借地権と異なり、公正証書等の書面を作成する義務はありません。

 

▼建物譲渡特約付借地権のメリット

①一般定期借地権より短い期間で、かつ、居住用の建物の場合でも設定することができる。

②一般定期借地権や事業用定期借地権と併用することができる。

 

一般定期借地権は存続期間が50年以上ですから、地主としては躊躇するところです。しかし、建物譲渡特約付借地権の場合、30年以上経過すると地主自身の判断で(建物を買い取って)借地権を終了させることができる点は安心に繋がります。また、居住用建物のための借地権でも使えるので便利です。また、建物譲渡特約付借地権は、一般定期借地権や事業用定期借地権と併用することができます。例えば、一般定期借地権と併用した場合、借地契約から30年以上経過したときに地主は自身のタイミングで買い取ることができますが、買い取りをしないまま50年以上経過して存続期間が満了すると、借地権者は更地にして土地を返還することになります。以上に対して、デメリットは、以下のとおりです。

 

 

▼建物譲渡特約付借地権のデメリット

①借地権消滅時点でお金がかかる

②借地権の登記とは別に、建物に仮登記をする

 

建物譲渡特約付借地権は、地主が借地権の建物を買い取ることで消滅する契約となっているため、契約終了時に建物代金を支払う必要があります。そして、買い取った建物は、引き続き収益物件として活用するイメージですが、築30年以上経過している物件であるため、もし解体する場合は更に費用がかかることになります。要するに、期間の満了時にまとまったお金が出ていくことが予想されるので、綿密な資金計画を立てておかないと困ったことになります。また、建物を確実に取得するために、あらかじめ建物の登記簿に所有権移転の「仮登記」を申請しておくことが一般的ですが、その登記費用は負担しなければなりません。

 

 

以上のように、借地権の設定には様々な方法があります。借地契約の場合は、契約期間が長期間となるため、不動産会社などの専門家に委託する場合は、自らの希望を伝えつつ専門業者と相談しておくべきでしょう。

 

▼各借地権の比較