認知症で入所、空き家どうする?



全国で空き家が増え、問題になっている。背景は様々だが、所有者が認知症になったり、相続した人たちの間で意見が合わなかったりといったケースも。ただ、処分を先送りにしていると、費用がかさみ売却などが難しくなる。どう備えればいいのか。

 

■築60年の親の家「維持困難、売りたいけれど」
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千葉県内の会社員女性(58)の両親は2021年夏、高齢者施設に入所し、住んでいた家が空き家になった。東京都大田区の下町の住宅街にあり、築60年を超える。当初は両親が生きているうちは残しておくつもりで、月に1度、電車で2時間弱かけ、掃除や換気に通った。電気やガス代、固定資産税や火災保険料などは父親の口座から引き落とされており、金銭的にも身体的にも限界を感じるようになった。そのままにしておけば、家屋の状態が悪化し、売ることも難しくなる。売却を考え始めたが、一つ懸念があった。所有者である父親の認知症が進んでいたことだ。

 

女性は、空き家に関する支援を行うNPO法人に相談。弁護士を紹介してもらい、判断能力が低下した高齢者に代わって財産管理などの契約手続きができる法定後見(成年後見制度)を、家庭裁判所に申し立てた。かかった費用は、弁護士の着手金や手続きなどで約50万円。家財処分でさらに50万円ほどかかる見込みだという。後見人として認められれば、売却の許可も申請する予定だ。居住用財産の場合、認められるのは、施設の入居費が預貯金だけでは足りないなど、「本人も自ら自宅を売ったはずだ」と合理的に判断できる場合などに限られる。

 

厚生労働省の推計では、認知症の高齢者は、12年の462万人から、25年には約700万人と、高齢者の約5人に1人になると見込まれる。第一生命経済研究所が21年、総務省の統計や年齢別の認知症有病率などを元に公表した推計によると、認知症の人が所有する住宅は18年時点で210万戸、21年時点で221万戸あり、40年には280万戸まで増える見込みだという。

 

同研究所の星野卓也主任エコノミストは「個人で情報収集して対策をするのは限界がある。行政や業界団体が、親が認知症になる前の対策を周知する必要がある」と話す。空き家問題に詳しい明治大の野澤千絵教授(都市計画)は「今後、認知症となる所有者が増えていくと、処分困難な空き家も増加する可能性がある」と指摘。「団魂世代の高齢化が、空き家問題にも大きく影響してくる」と警鐘を鳴らす。

 

 

■判断能力あるうち早めに対応を
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どんな備えができるのか。空き家に関する相談などを受け付けるNPO法人「空家・空地管理センター」(埼玉)の伊藤雅一理事によると、認知症になる前に利用できる主な制度は、任意後見制度や家族信託がある。前者の場合は、本人に十分な判断能力があるうちに「任意後見人」になってもらう人を自ら選び、財産管理など代わりにしてもらいたいことを契約で決めておく。家族信託は、お金や不動産などの財産の管理や処分を信頼できる家族に託す制度で、親子間だけでなく、親族などでも可能。任された側が自由に資産活用でき、積極的な運用も可能で、より自由度が高い。すでに症状がある場合は、法定後見制度などを利用することになる。「手間も費用もかかるため、二の足を踏んでしまう方も少なくないが、時間が経てば管理費がかさみ、家の状態も悪くなり売却も難しくなる。早めに対応した方がよい」と伊藤さんは話す。

 

 

 

■共有名義、合意できないケースも
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相続した際などに不動産が複数人での共有名義になっており、全員の合意が取れないため、売却や建て替えなどが進まないケースもある。こうした問題に取り組む不動産会社「クランピーリアルエステート」(東京)の大江剛社長は、年間3千件の相談を受けており、件数は増加傾向だという。相続したきょうだいの間で、「思い出の詰まった実家を残したい」「管理に手間がかかるので早く売りたい」と意見が合わないことも少なくないという。大江さんによると、共有不動産の問題は、都市部の家庭で目立つ。都市部では、購入時より不動産価格が上がっていることも多い。ほかの不動産や、分割しやすい現金や株があれば調整がつきやすいが、土地と建物以外に分割できる資産が少ないと、調整がつきづらいという。そのままだと、世代を超えて所有者数が増え、より対応が難しくなることも。共有名義の解消には、自分の持ち分をほかの共有者に売却したり、不動産会社などの第三者に売却したりする手段などがある。親族間でやりとりがうまくいかない場合、弁護士や司法書士などを介して意見集約することも必要だという。