老人ホームにかかる費用は?



 

老人ホームの費用の不安を解消するには?
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老人ホームへの入居を検討していたり、入居先を探していたりする方のなかには、「費用はいくらかかるのか」「費用を賄えるかどうか」といった、経済面の不安を抱えている方も多いのではないでしょうか?老人ホームを利用するときの費用には、入居の際に支払う「入居一時金(入居金)」と、毎月支払いが必要な「月額利用料」の2種類があります。まとまったお金が必要となる入居一時金(入居金)に加えて、月額費用が入居期間に応じて発生するため、費用負担が大きく入居できないかもしれないと感じることもあるでしょう。

 

費用面の不安を解消するには、費用を抑えるためのポイントを把握しておくことが大切です。たとえば、介護度、年金の受給額など個人の状況に適した老人ホームを選ぶことで、費用を抑えられる場合があります。また、減免制度や補助金を利用することも可能です。この記事では、老人ホームへの入居を検討している方や高齢の親がいる方へ向けて、老人ホームの費用相場や負担を減らす制度などをご紹介します。まずは費用の詳細について見ていきましょう。

 

 

■主な費用 ① 入居一時金(入居金)
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入居一時金(入居金)とは、入居時に一定期間分の家賃を前払いする費用のことをいいます。老人ホームの家賃の支払い方法には「入居一時金方式」と「月払い方式」があり、一定期間分の家賃をまとめて前払いするのが入居一時金方式、毎月定額の家賃を徴収されるのが月払い方式と区別されます。入居一時金(入居金)を支払うと、毎月かかる費用を抑えられますが、まとまったお金がない場合は入居へのハードルが高くなってしまいます。そこで、入居へのハードルが下がりやすい月払い方式を用意している施設もあるのです。ただし、この場合、入居時の初期費用は抑えられる一方、毎月かかる費用はその分高くなる傾向にあります。

 

入居一時金(入居金)は、あらかじめ施設ごとに決められた期間で償却されます。一般的に5〜15年程度の償却期間があり、償却期間が終わる前にホームを退去した場合は、未償却分の入居一時金(入居金)を返還してもらうことが可能です。しかし、ホームによっては入居一時金(入居金)の一部または全てを「初期償却」として、入居と同時に償却する場合もあります。この初期償却分のお金は返ってこないので、終身入居できない場合や入居期間が短いと想定される場合には注意が必要です。

 

 

また、契約後90日以内に解約した場合には「クーリングオフ制度」によって、入居中の家賃や食費を差し引いた入居一時金(入居金)を返還してもらうこともできます。万が一、入居してすぐ退去することになった場合には、忘れずに返金してもらうようにしましょう。

 

 

■主な費用 ② 月額利用料
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月額利用料とは、入居後に毎月支払う利用料のことです。月額利用料の内訳は、以下の表のようになります。

 

 

入居後はこの月額利用料のほかに、日用品代やおむつ代、医療費や日常生活費といった個人で支払う費用が発生することにも注意しておきましょう。そのため、入居一時金(入居金)を前払いできる余裕があれば支払っておくと、毎月の家賃が軽減され、月々にかかる費用を抑えることができます。

 

 

施設ごとにかかる費用
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入居費用や月額利用料は施設により異なります。老人ホームには民間施設と公的施設の2種類があるため、以下の表で施設ごとの料金相場を見ていきましょう。

※初期費用、月額利用料はあくまで目安の金額であり、金額を保証するものではありません。

 

 

上記の施設は、種類によって入居条件が異なります。そのため、費用の安い施設を希望しても、条件によっては入居できない場合もある点に注意が必要です。

 

 

費用を重視する方には公的施設がおすすめ
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老人ホームにはさまざまな種類がありますが、費用をできる限り抑えたい方には、初期費用や月額利用料が低額の公的施設をおすすめします。公的施設の概要は以下の通りです。

 

▼ケアハウス(自立型・介護型)

ケアハウスとは、地方自治体や社会福祉法人などが運営しているホームです。なかには初期費用がかかる施設もありますが、月額利用料は民間施設に比べると低めに設定されています。このケアハウスには、生活支援サービスや安否確認などが受けられる「自立型」と、生活支援サービスなどに加えて介護サービスが受けられる「介護型」があります。

 

特別養護老人ホーム(特養)

特別養護老人ホームとは、要介護度の高い人が終身にわたって介護を受けられる公的施設です。初期費用は不要で、ケアハウスと同じく民間施設に比べると月額利用料は低めに設定されています。

 

居室は、ユニット型個室、従来型個室、多床室などいくつかの種類があり、月額利用料は利用する居室の種類、要介護度などによって異なります。なお、特別養護老人ホームは原則65歳以上で、要介護3以上の方が対象です。ただし、同じく要介護3以上で特定疫病が認められる40~64歳の方や、要介護1、2の方でも条件を満たせば入ることができます。

 

 

公的施設の利用にかかる費用を
 シミュレーションしよう
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公的な老人ホームを利用した場合、費用総額はどのくらいになるのかシミュレーションしてみましょう。要介護5の状態で80歳のときに特別養護老人ホームへ入居し、83歳で亡くなった場合は以下の通りです。(減免措置なし、ユニット型個室)

 

月額利用料

施設サービス費の1割約2万7,900円(929円/日)

居住費約6万円(2,006円/日)

食費約4万3,300円(1,445円/日)

合計約13万1,200円

 

年間利用料

13万1,200円×12か月=157万4,400円

 

▼3年間の総額費用

157万4,400円×3年間=総額約472万3,200円

 

なお、上記の費用のほか、理容費や医療費などは別途かかります。

 

 

老人ホームにかかる費用は年金で足りる?
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老人ホームにかかる費用が年金で賄えるかどうかは、入居する施設、年金の種類や受給額によって変わってきます。令和3年末時点で厚生年金の月ごとの平均受給額はおよそ14.4万円、国民年金の場合はおよそ 5.6万円です。老人ホームの月額平均は18万円超程度といわれているので、施設によっては年金だけでの利用は難しい場合もあるでしょう。特に、厚生年金よりも一般的に受給額が低い国民年金のみを受給している場合は、より難しいといえます。ただし、地域によっても老人ホームの費用相場は異なります。東京都心部の老人ホームはほかの地域に比べて費用が高い傾向があります。そのため、費用の低い地域を選べば年金だけでも利用できる可能性はあるでしょう。

 

 

老人ホームにかかる費用を抑えるポイント
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ここまでお伝えしてきた通り、年金だけで老人ホームに入居することは厳しい場合がありますが、工夫次第で抑えられることがありますよ。次に、老人ホームを利用するうえで必要な費用を抑えるポイントをお伝えします。

 

▼初期償却の割合と入居期間を比較する

入居一時金(入居金)がかかる老人ホームでは、初期償却を採用しているホームが多い傾向にあります。初期償却とは前述の通り、入居一時金(入居金)のうち入居時に償却される分のことです。費用を抑えるには、この初期償却の割合と、想定している入居期間にも注意しましょう。たとえば、入居一時金(入居金)が300万円、初期償却なし、年間の償却額が30万円の老人ホームで、入居後1年弱で退去する場合、返還金から均等償却分のみが差し引かれるため、300万 – 30万 = 270万円が返金される計算になります。

 

しかし、初期償却が30%の老人ホームの場合は、入居時に90万円差し引かれるため、返還されるのは300万 – 90万 – 30万 = 180万円となってしまいます。クーリングオフ期間内(おおむね3か月)の退去であれば初期償却分も返還の対象となりますが、無駄が出ないよう事前によく検討することが大切です。想定している入居期間が短い、短期間の入居やほかの老人ホームへ住み替えの可能性があるといった場合には、月払い方式を導入している施設か初期償却がない施設も検討しましょう。

 

▼介護保険サービスを利用する

介護が必要な場合は、介護保険サービスを利用しましょう。要介護度や所得に応じて、さまざまな介護サービスを1~3割の自己負担で利用できます。介護付き有料老人ホーム(特定施設入居者生活介護指定施設)に入居した場合、介護サービス費は要介護度に応じた毎月定額制です。住宅型有料老人ホームの場合は、個人が利用した分を支払います。介護保険サービスを利用するためには、市区町村の介護保険担当窓口や、地域包括支援センターへ行き、ケアマネジャーに「ケアプラン」を作成してもらうことが必要となります。

 

 

費用負担を減らせる制度がある!
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ここでは、介護保険制度をはじめとした費用を軽減する制度をご紹介します。所得要件やさまざまな条件があるので、どの制度が利用できるか確認してみましょう。

 

▼医療費控除

医療費控除とは、自分や生計を共にしている家族の年間の医療費が一定の金額を超えたときに、所得税の控除を受けられる制度です。この制度は、有料老人ホームにかかる費用にも利用できます。控除の対象となる施設は特別養護老人ホームや介護老人保健施設などの介護保険施設、対象項目は、介護保険サービス費や食費、居住費やおむつ代などです。特別養護老人ホームでは支払った額の2分の1の金額が、介護老人保健施設と介護医療院では支払った額の全てが控除されます。ただし、医療費控除を受けるには確定申告が必要となることに注意しましょう。また、確定申告の際には、医療費控除の明細書の提出を税務署より求められることがあるため、領収書を保管しておく必要があります。介護保険施設に入居している方や、健康上の理由により自分で申告を行えない場合は、税理士に依頼することで確定申告が行えます。

 

▼高額介護サービス費支給制度

高額介護サービス費支給制度とは、介護保険サービスを利用して支払った費用が高額になったとき、上限額を超えた分が「高額介護サービス費」として払い戻される制度のことです。高額介護サービス費の上限額は、所得の多い人、世帯全員が住民税を課されていない非課税世帯、生活保護を受給している世帯など、収入額に応じて複数の段階があります。ただし、福祉用具の購入や住宅改修費の助成などは対象外のため、注意が必要です。

 

▼介護保険負担限度額認定制度(特定入所者介護サービス費)

介護保険負担限度額認定制度とは、所得や預貯金の少ない人が介護保険施設(特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院、介護療養型医療施設)に入所した場合、食費と居住費の自己負担が軽減される制度です。所得に応じて、自己負担の限度額が設けられており、限度額を超えた分は「特定入所者介護サービス費」として、介護保険から給付されます。負担の限度額は、所得のほか、介護保険施設の種類、居室のタイプによって異なります。もし対象にならなかった場合でも、2人以上の世帯のうち1人が施設に入所しており、入所後の食費と居住費の負担が困難と認められた場合には、特例減額措置を受けることができます。

 

▼社会福祉法人等利用者負担軽減制度

社会福祉法人等利用者負担軽減制度とは、所得が低く経済的に困窮していると認められた場合、特別養護老人ホーム(介護保険1割負担分、居住費および食費の利用者負担)を含む介護サービスを利用した際に、介護費用の自己負担額を4分の3(老齢福祉年金受給者は2分の1)に軽減できる制度です。ただし、費用を軽減してもらうには、その介護サービス事業所が制度の活用を申告している社会福祉法人でなければなりません。確認するには、自治体の福祉課に問い合わせてみましょう。以上の制度を利用するには、自治体への申請や確定申告などの手続きが必要です。また、自治体によっては、上記のほかにも独自のサポートを行っている場合があります。ホームページで調べるほか、分からない場合は窓口に問い合わせてみましょう。

 

 

余裕を持たせた資金計画を立てよう
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ここまで、老人ホームにかかる費用相場や負担を減らす制度などについて解説してきました。老人ホームへ安心して入居するには、余裕ある資金計画を立てることが大切です。資金計画は「現在の収入」「持っている資産」の2つに基づいて考えてみましょう。

 

ここでいう現在の収入とは、年金、家賃収入、配当金などを指し、持っている資産とは、預貯金、生命保険、不動産などを指します。このうち、資産から入居一時金(入居金)を支払い、収入から月額利用料を支払うのが理想ですが、収入が足りない場合は毎月資産を取り崩して支払っていくことになります。途中で費用を支払えなくなってしまうことのないよう、入居期間は長めに見積もって資金計画を立てましょう。

 

そして、親の施設入居を検討している子世代は、親と将来の暮らしや介護にかかわる希望についてあらかじめ話し合っておくことも大切です。介護や住み替えに使えるお金のこと、通帳や印鑑などの保管場所を確認しておきましょう。特に、親世代が暮らしている家を売却して老人ホームの資金に充てようと検討している方は、家の所有者が認知症になった場合、売却できなくなる可能性もあるため事前に準備を進めておく必要があります。